思い出から

幼稚園児であった2人の子どもたちは、父の大きな上着を着たり、革靴を履いたりして嬉々としてまとわりついた。たまに夕方に帰宅した時、食事をしていても飛び出してきて玄関で抱きついてきた。

小学生の低学年までに彼ら(息子たち)が父に与えた愛情は、どんなことがあっても、彼らを見放さない、守り抜く、そんな決意を父にさせた。

中学生から高校生にかけて兄は家庭内で暴力をふるったり、ナイフやらモデルガンをもって喧嘩に行こうとしたり、退学すると言い出し、荒れに荒れた。110番に連絡して暴れる息子を抑えてもらったこともある。その後も父は変わっていく息子を茫然と見守りながら、でも一緒に付き合った。

一家にとって苦しい数年間を終え、高校の卒業式で同年の卒業生の顔つきを見て、彼らそれぞれがその胸の内にドラマを抱えて数年間過ごしたことを感じ取った。教頭は保護者に向かって最後にこう言った。「どの子も、本当に一言では言えないほどの様々な体験をしてきて卒業していきます。・・・・。」

父はそのことをしみじみと感じていた。

1年間の浪人生活を経て兄は上京して大学に通い始めた。そして初めての帰郷の際、兄は父に向ってこういった。

「とうさん、僕は本当に恵まれていたと思う。」

父はその一言で救われた。

One thought on “思い出から”

  1. キヨシです。
    いつか必ずわかってくれるときが来る。
    そういうことを思うことがあります。
    逆に、あの時の言葉がやっとわかる自分がいます。
    それが成長なのかもしれないですね。

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