親愛なる子どもたちへ・樋口了一

年老いた私が ある日 今までと違っていたとしても

どうかそのままの私のことを理解して欲しい

私が服の上に食べ物をこぼしても
靴のひもを結び忘れても

あなたに色んなことを教えたように
見守って欲しい

あなたと話す時 同じ話を何度も何度も繰り返しても
その結末をどうかさえぎらずにうなずいて欲しい

あなたにせがなれて繰り返し読んだ
絵本のあたたかな結末は
いつも同じでも私の心を平和にしてくれた

悲しいことではないんだ
消え去ってゆくように見える私の心へと
励ましのまなざしを向けて欲しい

楽しいひと時に 私が下着を濡らしてしまったり
風呂に入るのをいやがるときには
思い出して欲しい

あなたを追い回し 何度も着替えをさせたり
様々な理由をつけていやがるあなたと
お風呂に入った あの懐かしい日のことを

悲しいことではないんだ
旅立ちの前の準備をしている私に
祝福の祈りを捧げて欲しい

いずれ歯も弱り 
飲み込むことさえできなくなるかもしれない
足も衰えて立ち上がることさえ
できなくなったら

あなたが か弱い足で立ち上がろうと
私に助けを求めたように
よろめく私にどうかあなたの手を
握らせて欲しい

私の姿を見て悲しんだり
自分が無力だと思わないで欲しい
あなたを抱きしめる力がないのを知るのを
知るのはつらい事だけど

私を理解して支えてくれる心だけを持っていて欲しい
きっとそれだけで それだけで
私には勇気が沸いてくるのです

あなたの人生の始まりに
私がしっかりと付き添ったように
私の人生の終わりに少しだけ付き合って欲しい

あなたが生まれてくれたことで
私が受けた多くの喜びと
あなたに対するかわらぬ愛をもって
笑顔でこたえたい

私の子どもたちへ
愛する子どもたちへ

東京に暮らす兄からのメールに
涙がとまりませんでした。

3 thoughts on “親愛なる子どもたちへ・樋口了一”

  1. 悲しいことではないんだ
    旅立ちの前の準備をしている私に
    祝福の祈りを捧げて欲しい
    読みながらふと、映画「おくりびと」を思い浮かべました。
    近しい肉親の旅立ち
    その準備に家族が一緒にいてあげられること
    祈ってあげられること
    それができればほんといいんですね。
    素敵な詩です。ありがとうございました。

  2. 親にはいつでも
    元気で、強くて、正しくて、頼もしくいてほしいものです。
    でも、一人の人間なんですよね。
    ちょっと優しい気持ちになりました。
    ありがとうございます。

  3. キヨシです。
    この世に生まれてきた意味は何だろう?
    そんな時に思い出す詩が私にもあります。
    Remenber 生まれたとき 誰でも 言われたはず
    耳を澄まして思い出して 最初に聞いた Welcome
    Remenber けれどもしも 思い出せないなら
    私 いつでも あなたに言う 生まれてくれて Welcome
    Remenber 生まれたこと Remenber 出会ったこと
    Remenber 一緒に生きてたこと そしておぼえていること

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